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岐阜地方裁判所 昭和56年(わ)20号 判決

裁判所書記官

早瀬武雄

本籍

岐阜県美濃加茂市古井町下古井二五七八番地

住居

同市太田町一七五七番地

職業

特殊浴場及び宝石店経営

坂井順三

昭和三年一〇月一四日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は審理を遂げ次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金二二五〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

但し、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、岐阜県美濃加茂市御門町一丁目八番五四号において特殊浴場「トルコ太田橋」、及び同市太田町一七五七番地において宝石店「宝石のサカイ」を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て、違法であることを知りながらあえて、

第一  昭和五二年分の実際所得金額が四三、九九九、〇八八円であり、これに対する所得税額が二〇、〇五二、二〇〇円であったにもかかわらず所得の一部を除外したうえ、これを仮名、無記名の定期預金として秘匿するなどの行為により昭和五三年三月九日、同県関市川間町二番地所在の関税務署において、同税務署長に対し、所得金額が八、八〇〇、〇〇〇円で、これに対する所得税額が一、三七六、七〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により正規の所得税額と右申告税額との差額一八、六七五、五〇〇円を免れた

第二  昭和五三年分の実際所得金額が六九、四一八、九八四円で、これに対する所得税額が三七、一二九、七〇〇円であったにもかかわらず、前記同様の行為により所得の一部を秘匿したうえ、昭和五四年三月一三日、前記税務署において、同税務署長に対し、所得金額が九、三〇〇、〇〇〇円で、これに対する所得税額が一、六三八、五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により正規の所得税額と右申告税額との差額三五、四九一、二〇〇円を免れた

第三  昭和五四年分の実際所得金額が七二、九八七、七八五円で、これに対する所得税額が三九、四九一、二〇〇円であったにもかかわらず、前記同様の行為により所得の一部を秘匿したうえ、昭和五五年三月一一日、前記税務署において、同税務署長に対し、所得金額が九、八〇〇、〇〇〇円で、これに対する所得税額が一、七四二、九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により正規の所得税額と右申告税額との差額三七、七四八、三〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の標目)

判示事実は、被告人の当公判廷における供述のほか、検察官請求証拠等関係カードの次の番号の証拠によって証明十分であるから、これを引用する。

1、2、3、43、44

(法令の適用)

一  該当法令

所得税法違反 同法二三八条

二  刑種の選択

懲役刑と罰金刑の併科

三  併合罪加重(最も重い第三の脱税の罪の刑に法定の加重)

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条、四八条

四  宣告刑

懲役一年及び罰金二二五〇万円

五  労役場留置

刑法一八条

六  懲役刑の執行猶予

刑法二五条一項

(情状)

本件脱税額は合計で一億近くと多額である。しかも被告人がこれを犯すにつき、格別同情すべき動機は存しない。納税は国民の義務であり、一罰他戒の観点から厳重処分が要請されよう。

ただ脱税は、見方をかえれば極めて誘惑的な国に対する債務不履行と言い得る。そして遺憾ながら、我国では、率先して範を垂れるべき為政者がほとんど誠実にこの義務を尽くしていないのは、公知の事実と言ってよい。また農業、自由業、給与所得者等各職種によって税負担の不平等が存在するとの国民感情は根強く、これが納税意欲を著しく減退させていることも否定できないであろう。従ってかかる世相の中にあって摘発された被告人のみひとり厳しい責任追及するのは当を得ない。因に被告人は事件発覚後は自ら進んで査察に協力し、自己の非を明らかにして、現在では反省、悔悟の態度をよく示しているし、前科、前歴は全くなく、現在まで社会的、家庭的に特に非難される生活態度はなく、本件犯行は近隣に知れ渡ってそれなりの社会的制裁を受けており、今後は税理士の指導を受けて青色申告をする予定で再犯の虞れはない。以上諸般の事情を彼此考慮した。

よって主文のとおり判決する。

(公判出頭訴訟関係人)

検査官(検事) 宇野博

弁護人(私選) 林千衛

(裁判官 丹羽日出夫)

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